2025/06/19 19:38

入れかわり、立ちかわり、人がやってくる。
取材をしたこの日も、老若男女が集っていた。
「あらゆる世代の方が来てくれるから、マニュアルや正解はない。お客さんに合わせた接客をしていきたい」
大切にしていることは、直感的な心地よさ。
「なるべく店内には文字を置かずに、アートや絵画を飾っている。音楽は、客層や空間感に合わせて選んでいく。自宅にいるようにリラックスしてほしい」
豊富なメニューは、多くの人に寄りそうためにある。
「お子さんが来たらジュースやシェイク、コーヒーが飲めない人にはチャイやラテを。みんなが楽しめるメニューを考えている。ジュースを飲んでいた子の初めてのコーヒーが、hug coffeeだったら嬉しい」

両替町店から始まり、紺屋町店、南町店など、現在展開しているのは7店舗。惜しまれながらも閉店した店舗は2店舗。伝馬町店とクラフトビールを扱ったhug hopだ。

現在、街のいたるところでクラフトビール店が賑わっている静岡。hug hopがオープンしたのは2016年。クラフトビールの先駆けだった。
「ポートランドでは、コーヒーとクラフトビールは密接な関係だと言われている。訪れる人の裾野を広げようと始めました」
2020年。コロナウイルスが蔓延する中、客足が遠のき売り上げが減少する。どの店舗も苦境に立たされた。今やれることをやろうと挑戦したクラウドファンディングは、1日で目標額を達成する。応援されてきたことを肌身に感じた。ここで、ある決断をすることとなる。
「僕たちは、コーヒーで勝負をしていこうと思った」
2020年末日。hug hopを閉店し、現在はhug coffeeのみに切り替わった。

「コロナウイルスをきっかけに、あらゆる見直しをした。もっと地域密着型の店をつくりたい。いつか公共施設内にオープンしたいと思いました」
それから2年後。思い描いたビジョンがかたちになる。2022年12月、初めての焼津市、ターントクルこども館店がオープン。翌年1月には、駿府城公園横に設立された静岡市歴史博物館店がオープンした。始めから、順調だったわけではない。
「紆余曲折しながらも、一歩ずつすすめてきた。新しい静岡の名所になってくれたら嬉しい」

改めて、どうして人が集う場所をつくりたかったのか。と、尋ねてみた。
「十代の頃から、地元の公園がさびれていることが気になっていた。子供達にさびた遊具で遊んでほしくない。海外で公園がにぎわっている光景を見て、街にはひらかれた場所が必要だと思ったんです」
ひらかれた場所に、かけ合わさったのはコーヒーだった。
「コーヒーは、発展途上国でとれる人間くさいもの。温度があるものとよく合う。これからの時代にこそ、誰かと食事や会話を楽しむ時間が必要だと思う」

酒井さんは、たそがれるという言葉をとても嬉しそうにつかう。
「カフェはたそがれる場所。パソコンやスマートフォンからも離れて、ひたすら時に委ねる時間があってもいい。何にも追われない時間は、豊かだと思う。コーヒーがない人生は考えられない」
「実は、コーヒーが飲めないんです」
と、伝えると
「嬉しいねえ。これから好きになる可能性があるってことでしょ?そういう人も来れるコーヒー屋でありたい」という言葉が印象的だ。